消えない烙印 06
アニスが王宮で暮らすようになってから、民たちの暮らしは苦しくなっていく一方のようだ。
国王である父や王太子である兄が難しい顔をしていた。
天候不順が続き、農作物が丈夫に育たないそうだ。
ずっと豊作が続いていたから国庫の備蓄は充分だったし、貴族たちもそれなりに蓄えていた。
だから民たちが飢えない程度には養うことはできているが、このまま続けばどうなることかわからない、そうだ。
アニスの政治を教える教師がためいき混じりに言っていた。
それがアニスを責めて聞こえたのは気のせいだろうか。
時期的に一致してしまったために、アニスが感じてしまっただけだろうか。
ふいに王都よりも北方にあるローザンブルグ地方はどうしているだろうか、とアニスは思った。
『家族』以上に大切にアニスの成長を見守っていたレインドルク城の人々や公爵家の人々は。
保守的で、誠実で、真面目な人間が多く、信仰の篤い土地柄だ。
きっと王家の人間よりも下々の者まで気をかけて、努力をしているだろう。
そんな予感がした。
だったらアニスは第三王女――白姫菊姫らしくあるだけだ。
何かをしくじったら大切な人たちまで類が及ぶ。
特に『赤の誓い』を立てたというオルティカは悲惨な末路が待っているだろう。
年上の幼なじみを守るために、成人前の娘は人前では微笑みを絶やさなかった。