消えない烙印 04
アニスの決意は半日と持たなかった。
ベールの貴婦人たちが用意してくれたドレスや装飾品はすべて処分された。
レインドルクの……ローザンブルグで手にしたものは、無駄なものだという扱いだった。
それは物品だけではなかった。
女官ばかりか侍女までもが、アニスの心は卑しいと決めたのだ。
立ち振る舞いも発音も、何から何まで下賤だと。
旧都育ちだから保守的だとか、辺境の地だったから田舎臭いと言われるのは想定内だったが、末端貴族どころか、王都に住まう平民にすら劣ると言われたのだ。
唯一、アニスが手放さずにすんだのは、オルティカが譲られた金の首飾りだけだった。
王権神授の謳う王国だったから、信仰の証である金の首飾りだけはどうにもできなかったのだ。
母親である王妃が信仰篤かったのも大きい。
金の首飾りを取り上げられそうだった場面を見て、顔色を変えたのだ。
『たとえどんな人物であっても神への敬意を奪うことはできない』と言ってくれ、アニスを抱きしめてくれた。
そしてアニスに『金の首飾りを取られても、父たる神への信仰を持ち続けていれば必ず、光として道を導いてくれるから、泣かなくても大丈夫よ』とも言ったのだ。
アニスが金の首飾りに固執したのは、父たる神への信仰からではない。
『エレノアール王国の大聖堂』育ちだろうと、そんなものは紙切れよりも薄いのだ。
年上の幼なじみがおまじないをかけてくれた大切な物だったからだ。
聖リコリウスさまが神さまと交わした『契約』のように、真剣な約束だった。
だが『家族』であり、産んでくれた母親にも言うことはできなかった。
それはアニスに刻まれた烙印のような痕と一緒だった。
心どころか、烙印を押された醜い娘は黙って口を引き結んだ。