消えない烙印 03
王都。
そこにはそびえたつような一等豪華な城があった。
贅の極み。
舗装された道がアニスを乗せた馬車が軽快に駆け抜けていく。
出迎える人々は笑顔であり、その手には小さな白い花が握られていた。
こざっぱりとしているが裕福とは言えない家柄では一輪。
飾り立てるように着飾った家柄ではバスケットいっぱい。
姫菊と呼ばれるような、どこにでも咲く、可憐な花だった。
オルティカがよく摘んできたし、レンドルク城の近くで群生している場所には馬に乗せて連れて行ってくれたこともある。
だからアニスには馴染みのある花だったが、みなが一様に持っているのが気にはなった。
馬車は止まり、瑠璃色のマントを羽織った壮年の男性がドアを開いた。
アニスの前で恭しく頭を垂れる。
「お待ちしていました。
白姫菊姫」
壮年の男性は言った。
知識としてはあった呼び方だったが、アニスはあまり嬉しくなかった。
「お元気になられたとはお聞きしておりますが、この長旅。
お疲れでしょう。
ですが、国王陛下と王妃殿下がずっと待ち望んでいました。
一度だけでよろしいので、是非ともお会いなさってください」
丁寧な物腰で壮年の男性は言う。
左胸には銀の勲章。
国王自らの手で授けられると言われる銀十字勲章に違いない。
騎士中の騎士。
アニスは気を引き締めて、微笑んだ。
「出迎えありがとうございます。銀の騎士」
できるだけ声を抑えて、早口にならないようにゆったりと言葉を紡ぐ。
少しは王女らしく振る舞えただろうか。
付け焼刃のようなマナーだった。
「そのお言葉だけでも充分にございます」
銀の騎士はさらに頭を下げた。
オルティカの言ったように『家族』はアニスを心配して、会いたがっていたようだ。
謁見の間では両親や兄の王太子だけではなく、嫁いでいるはずの姉たちまでもがいた。
鏡で見たように同じようなサファイアの瞳を持つ男性は玉座から降り、アニスを出迎えた。
厳しそうな容貌ではあったが、その瞳に宿った光は優しい愛情らしきものが浮かんでいた。
年齢を感じさせない女性は涙を潤ませながら、白い繊細な手でアニスの手を握りしめた。
これが……両親。
病弱なために転地療養をしなければならなかった第三王女を信頼のおける公爵家に預けた国王夫妻。
演技でもなく、そう見えた。
母親似の麗しい姉たちも、かみしめるように微笑み、会いたかったと言ってくれた。
王太子も、ようやく帰ってきたな。健康そうで良かった。と言ってくれた。
他の兄たちも目を細めて、アニスを見ていた。
アニスは困惑しながらも、微笑みを浮かべながら、『家族』の歓迎を受けた。
成人前だとはいえ淑女らしく、振る舞った。
きっと……ここでも上手くやっていけるはずだ。
少なくても『家族』はあたたかい。
自分を捨てた両親をアニスは信じてみようと思った。