第二話
レティシアは侍女たちに総がかりになってピンク色のドレスに着替えさせられ、一人きりの昼食をとった。
こういう時に、自分は侯爵家の娘なのだと実感するのだった。
階級の違う者は、同じテーブルについてはいけないのだ。
一生独身でかまわない。
そうは思っても、寂しくなる事柄だった。
昼前に言われたことを思い出し、レティシアは光が差しこむ自室で手紙を開いた。
いくらネズミ姫と呼ばれても、太陽の光が慕わしい。
太陽が黄金の色だと思うかもしれない。
王国の初代国王であり、王国の名前にもなったロディアーヌさま。
神の啓示を受けて、左目が黄金に染まった、という。
そして様々な恩寵を受けた、という。
手をかざしただけで病人の病を癒し、砂漠で水を探し当てて、荒れた海を沈めた、という。
その血を引く王族たちは、みな美しい黄金の左目を持っている。
片色違いの双眸の中で『王女』、『王子』の称号を持つ者は、未だに奇跡の力を持っている。
有名なのは、先見の力を持つ第二王子ティデットさまと破壊の力を持つ第三王子クレイヴァルさまだろう。
レティシアは会ったことがないけれども、素晴らしい方に違いないと思っていた。
ロディアーヌさまの時代は遠く過ぎた。
今、奇跡の力を振るえば多大な代償が待っているという。
それでも王国の平穏を守るために、力を使い続けているというのだ。
神に対する敬虔な信仰だけではできない立派なことだろう。
レティシアはうっとりと日差しをめでる。
それから、本来の用事を思い出し、姉からの手紙を開封する。
元気にしているかどうか、そんな安否の確認から始まる手紙は、王都への案内だった。
先見の力を持つ第二王子ティデットさまの19歳の誕生日パーティーへの参加をうながすものだった。
第二王子ティデットさまの代償は病魔だと聞く。
辺境の地にいても届くほどなのだから、それは重たいものだろう。
それを押してのパーティーということは王族の務めとはいえ、大変なことだろう。
姉であるブリジットは、ダンスなど踊らずに、美味しい料理を食べて、久しぶりに王都で家族団欒をしようと書いてきた。
あいかわらず家族には気を使ってもらってばかりだ。
領地の引きこもって、ネズミ姫と呼ばれているようでは仕方がないだろう。
いい歳をして社交の場に出ないことを心配されている。
無碍にするわけにもいかないだろう。
それに第二王子ティデットさまの誕生日パーティーともなれば、目立たないですむだろう。
姉が書いてきたように、王都らしい豪勢な美味しい料理を食べながら、家族とテーブルを囲むことができるだろう。
ダンスは踊らなくていい、とあるのだから、礼儀的に踊らなくてはいけないファースト・ダンスは義兄のセイドリックが相手を務めてくれるのだろう。
優しい義兄は、少々体の動きが曲を外したり、足を踏んづけたぐらいでは、微笑んですましてくれるだろう。
久しぶりに家族に会いたい、という気持ちも強かった。
レティシアは参加をする旨をしたためた。