第三話
馬車に揺られながら、荘厳な王都にたどりつく。
王城に来るなんて、これで最後かもしれない。
そう思うと、レティシアは探索に夢中になってしまう。
旅装は解いたものの、華美ではないドレス姿だ。
誰もリヴィエール侯爵令嬢とは気がつかないだろう。
それに家族の中では異端な色彩の髪と瞳だ。
一致する者がどれほどいるだけだろう。
せいぜい第二王子ティデットさまの誕生日パーティーに浮かれた中流階級の令嬢が歩き回っているように見えたのだろう。
レティシアは思ったよりも自由に動くことができた。
どれだけ歩いたのだろうか。
誰も来ないような、それでいて美しい庭園があった。
薔薇や百合といった華やかな庭ではなかった。
領地に咲くような慎ましやかな花たちがたくさん植えられていた。
それも見る者を和ませるかのように、配慮されていた。
領地の本ばかり並んでいる地下室のように落ち着く場所だ、とレティシアは感じた。
一輪ぐらい摘んでいきたい、と思ったけれども、現国王陛下の趣味は造園づくりだと聞いたことがある。
不敬に当たるだろう。
思う存分、眺めていたよう。
レティシアは花が咲く一角にしゃがみこんで堪能していた。
絵画の才能があれば写し取っておくことができたのに。
こういう時ばかりは惜しまれることだった。
一通り貴族の娘らしい教育を受けたものの、どれも及第点なのだ。
ためいきを零しそうになった時に、背後から笑い声が聞こえてきた。
レティシアは驚いて、振り返った。
そこには麗しい姿の女性が立っていた。
お仕着せの制服を身にまとった女性は乳母マリーと同じぐらいか、それよりも若いか。
王宮付きの女官だろう。
「お好きなだけお摘みください」
親切な女官は笑顔のまま言った。
レティシアは顔まで赤くなるのを感じながら、立ち上がる。
それから宮廷式の礼をすると
「失礼しました」
と小走りにならない程度で、立ち去った。
気まずいところを見られてしまった。
こんな奥まった場所に来れる女官なのだから、かなり高位だろう。
家格も、血筋も、職務への勤勉さも、吟味されているだろう。
そんな人物に笑われてしまったのだ。
レティシアは単純に恥ずかしかった。