7.雨宿り
とーこのお父さんは、慶事(けいじ)といいます。
名前の由来は、そのまんまです。
おじいちゃんとおばあちゃんは、男の子が欲しくて、お父さんが産まれてきたのでうれしくて、『慶事』と名づけたんだそうです。
早与子さんとは、「はとこ」になります。
「はとこ」というのは、ひいおばあちゃんがいっしょの人のことです。
だから、とーこと宗ちゃんは、ひいひいおばあちゃんがいっしょです。
村上家は女の人が家を継ぐので、お父さんは家を継げないので、山上を出て、上京しました。
東京の大学に働きながら通って、サラリーマンになりました。
そこで、お父さんとお母さんと出会いました。
お母さんは、恵子といいます。
名前の由来は、慈しみを持った優しい子になりますように。
恵まれた人生を歩めるように。
と、おばあちゃんが決めたそうです。
お母さんもやっぱり村上です。
でも、山上育ちではありません。
大人の事情で、お外で育ったんです。
山上では『外者(そともの)』といって、なぜか区別をします。
お母さんは、中学生のときに天涯孤独の身の上になったそうです。
苦労しながら、高校に通ったそうです。
二人のなれそめは、夜遅い公園だそうです。
慣れない残業に疲れ果てたお父さんが缶ビール片手にふらりと立ち寄った公園に、制服姿のお母さんがいたそうです。
お父さんはびっくりしながら、声をかけたそうです。
お母さんがとても可愛かったので、ほんの少し下心があった、そうです。
でも、心の8割は善意だったそうです。
未成年が夜遅くで歩いていると、危険だから。
それが理由で、不可解な関係になるつもりはなかったそうです。
とーこには、不可解な関係っていうのが少しわかりません。
それがきっかけで、二人は電話を掛け合うような知人になったそうです。
その後、お母さんが高校卒業するのを待って、お父さんは交際を申し込んだそうです。
やがて、二人は「本当の愛」に気がついて、結婚しました。
それが、お母さんが20歳のときです。
それから1年とちょっと後。
とーこが産まれました。
とーこの名前の由来は、たくさんありすぎて覚え切れません。
すごく、良いお名前なんだそうです。
とーこは5歳のときに、山上の村上の本家に行きました。
当主の早与子さんに気に入っていただけて、山上に家族で住めるようにお家をもらいました。
今も、そこに住んでいます。
最後に、お父さんが言った言葉で、お母さんが今も覚えている言葉を書いておきます。
お母さんはこの一言で、お父さんに恋をしたんだそうです。
とーこも早く、そんな言葉を言ってもらいたいと思います。
でも、どんな人が言ってくれるんだろう?
そのときが来るまでわからないのが、残念です。
「人生は晴ればかりじゃないから、時には雨宿りが必要なんだよ。
軒先を提供するよ。
ちょっと、頼りないかもしれないけど、ないよりはマシだろう?」