やあ、皆さん。
お揃いでどこへ行かれるのですか?
私は、そう……残響《ファントム》とでも名乗っておきましょう。
この二つ名が殊の外、気に入ってしまったのですよ。
似合いませんか? 似合いますか?
どちらでも。
私は残響《ファントム》なのでしょう。
やがては消える音であり、やがては去る亡霊である。
今日は何の日だか覚えてらっしゃいますか?
おや覚えていない?
それはずいぶんとお可愛らしいことですね。
失礼、気にさわりましたか?
褒めたつもりだったのですが、こういったことは実に……難しいですね。
あなたは、今日という一日を長く、楽しめることでしょう。
“幸い”ということですよ。
ああ、あなたは覚えてらっしゃる。
賢い!
クレーバーだ。
闇にまぎれる鴉のように、あなたは夜を渡っていけるのでしょうね。
素晴らしい!
では、私はあなたに一つ贈り物を差し上げましょう。
「真実と嘘の境界は人の幻想の中にある」
そんな言葉をご存知ですか?
あなたなら識っているでしょうね。
24時間限定の非現実《ユメ》なら、あなた方はどうしますか?
どう過ごしますか?
残響《ファントム》たる私は、ここで次の人たちを待っていますよ。
それが仕事、いえ役目……違いますね。
役割
それが似つかわしい。
同情は必要ありませんよ。
楽しくて気に入っていますから、退屈はしていません。
……もっとも、本体はふらりふらりと電子の海の中を散策しているでしょうが。
では、皆さん、お気をつけて。
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