こころを隠す

 気にしてばかりいる。
 ずっとは、それだけを気にしている。

 気が付かなければ良かったのか。
 知っていしまったからなかったことにはできなくて。

 幸せな夢を見たから。
 それだけが欲しいと思ってしまう。

 そんなことを司馬懿様に知られたくないから。
 誤魔化している。

 笑顔はきちんと浮かべられているだろうか。
 司馬懿様に軽蔑されたくない。

 は護衛武将でしか過ぎない。

 いつだって代わりのいる代替品だ。
 お母さんを苦労をさせたくなかったし。
 まだ小さな弟や妹を苦労させたくなかった。
 恵まれた容姿も教養もなかったから、護衛武将になるという選択肢しかなかった。
 そのこと自体に不満はない。
 お金を稼ぐためには生命ぐらいしか差し出すことができなかった。
 曹魏の大地に生まれ、曹魏の大地で育った。
 だから弓を握ることに後悔はない。

 いつか終わりが来る。

 戦の終結なんてまだ先だとでも理解している。
 だから、終わりが来るのはの生命が失われる時だ。

 そのこと自体は、護衛武将として経験を重ねるうちに理解してした。
 一日でも長く。
 一秒でも長く。
 司馬懿様の唯一の護衛武将だった、という「今」に誇りをもって。
 こころが痛むけど、は過ごす。

 それでも、気になってしまう。

 モノでしかない護衛武将だから。
 司馬懿様にとって価値のないモノだから。

 名前があるのに、司馬懿様だけが名を呼んでくれない。

 そのことがズキズキと痛む。
 他の人が呼んでくれる分だけ、痛みは加速する。

 人生に幕が下りる瞬間までに「」という名前を呼んでもらえるだろうか。
 だいそれた願いだと思っている。

 それでもは願うことを。
 祈ることをやめることができない。

 永訣の日が来るまで、はこころの中で考え続けるだろう。

 でも司馬懿様に気が付かれて、護衛武将をクビにされたくないから。
 表面的には誤魔化した笑顔を浮かべて、執務室の扉をノックする。
 今日も警護をするために。

   は、そっとこころを隠す。

『診断メーカー』
作成者:憂@torinaxx
メーカー名:「ランダムワードパレット

『こころを隠す』
気にしてばかり、誤魔化し、笑顔
(too thoughtful two)

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