陰る院子の葉

「陸遜は何があっても全力で私を守ってくれるんでしょ?」
 その笑顔は曇りがなく、今日の空のようだった。
 少女の自分を頼りにしてくれる。
 嬉しかった。
 たとえ消去法であっても。
「ええ、もちろんです。
 姫」
 陸遜は胸を張って頷いた。
「ありがとう」
 尚香の笑顔はさらに輝いたものになった。
 ここが戦場であることが場違いなほどの平穏な一時だった。
 戦と言えないほどの小競り合い。
 孫呉の大地を愛するなら当たり前になってしまった山賊討伐だ。
 だから少女は総大将を許された。
 いくら弓腰姫の綽名があるとはいえ、孫呉の大切な末姫だ。
 宝玉は絹に包んでしまっておかなければならない。
 その価値が発揮されるまで。
 自分には手に入らない玉を静かに見つめながら、お目付け役として駻馬の手綱を任された陸遜は傷ひとつつけずに、本国に無事帰還すると胸の内で誓う。
 だから聞き落とした。
 あるいは言葉にならない言葉だったのかもしれない。
 本心とはそのような曖昧なものだ。

「だったらいいわ」
 ――今はそれだけでもいいわ。

 院子の葉のように輝く玉の瞳が陰ったことに陸遜は、この時も気がつかなかった。

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