イルミネーションの中で

 あかねは、この季節が好きだった。
 街がキラキラと輝く。
 期待で胸いっぱいになった。
 一日ずつ光が増えていくの冬の到来。
 寒くても、心が弾んだ。
 サンタクロースの正体が両親だと知ってからも、ずっと好きだった。

 そして、今年はもっと好きになった。

「これがクリスマスですか?」
 途惑ったように隣を歩いていた青年が言った。
「本番はもう少し先なんですけど」
 あかねは微笑んだ。
 12月に入って、街はすっかりクリスマスムードだ。
「街が輝いていますね。
 まるで地上に落ちてきた星のように」
 鷹通は言った。
「イルミネーションはこの時期の目玉です。
 これを見るためだけに人混みの中に行く人もいるぐらいですよ。
 お正月よりも混雑しているぐらいです」
 あかねは説明をする。
 冷たい北風に吹かれて頬を刺すよな寒さがあったが心はあったかい。
 今年のクリスマスは、今までのクリスマスよりも好き。
 大好きな人の誕生日が来る。
 祝えるとは思っていなかったし、京にいた時はそれどころの騒ぎじゃなかった。
 こうやって手を繋いで歩いていられるのは、奇跡みたいなものだった。
「当日じゃなくてよろしかったのですか?
 前夜祭から祝うものだと書物には書いてあったのですが……」
「鷹通さん、まだ人混みが苦手ですよね」
 今、歩いている道並みであってもイルミネーションを楽しみにちらほらと人がいるのだ。
 ぶつかるほど人がいるわけじゃないけれども、カップル同士が記念撮影をしたり、三脚を片手に本格的に撮影をしている人もいる。
「申し訳ありません。
 慣れていなくて」
 異世界から現代にやってきた青年は謝罪をする。
 3カ月しか経っていないというのに、かなり適応しているように見えるけど……やっぱり気になるようだった。
 あかねだって京で神子と呼ばれるまで慣れるまで時間がかかったのに。
 真面目で努力家で……そんなところも好きだ。
「いえ。気にしないでください。
 当日だったら、こんなにゆっくりと見て回れませんから」
 あかねは明るく言った。
 手を繋いでイルミネーションを見られただろうけど。
 足が痛くなるほど立ち止まるような散策になっただろう。
 むしろ人の頭が邪魔して、木々が電飾で彩られた世界を見ることはできなかったもしれない。
 毎年の人だかりを知っていだけに、あかねは今で良かったと思う。
 去年までテレビのニュースで、混雑するのがわかっていてイブに行く人の気が知れない、と他人事のように思っていた。
「冬至。太陽の復活祭がクリスマスの起源になった。
 学校の先生の雑談で知ったばかりです」

 12月22日。

 鷹通の誕生日であり、今年はぴったりと冬至だった。
 今日であった意味がきちんとある。

「異教の教えでも共通点があるのですね。
 私はこちらに来てから……鬼について考えを改めました。
 彼らを追い詰めたのは京の人間たちでした」
 鷹通は声を落として言った。
 あかねは鷹通の横顔を見上げる。
 繋いだ手は離さないまま。
「神子殿の世界では当たり前のように鬼がいる。
 それどころか鬼のような髪の色や瞳の色を変える人もいます。
 このような世界で育ったのなら、さぞや違和感が強かったでしょう」
 鷹通は真剣に言う。
「外人、と呼んでまだ差別していますよ。
 確かに外見だけで決めつける人は少ないですけど」
 色々な人種がいるけれども、共存しているとは言い難かった。
 内と外を使い分けているのは千年経っても同じ。
「アクラムは悪いことをしていたのだから、同情の余地なし! です」
 外見から色々な迫害にあっていたかもしれないけど、それだけでやっていいことじゃない。
 もう大人と呼んでいい年齢だったのだから、いくらでも対応ができたはずだ。
 それに部下たち……同じ迫害を受けてきた人たちを大切にしていたようには見えなかった。
 悪いことをした人に罰が下るのは当たり前。
「鷹通さん。
 せっかくなんです。
 クリスマスが近い今を楽しみませんか?」
 話の腰を折るようにあかねは提案した。
「失礼しました。
 神子殿がおっしゃる通りです」
 鷹通は柔らかく微笑んだ。
 そろそろ神子呼びはやめて欲しいけど。
 まだタイミングがつかめない。
 慣れるのに忙しそうな青年に求めるのは酷なような気がして……現状維持が続いていた。
 恋人らしくクリスマスシーズンに入った街を手を繋いで歩いているのに。
 でも……それでもいい、と思えるほど、今年の冬はあかねにとっても幸せだった。


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