女の子はシュガーみたいに甘い


 ナツキはカテゴリーエラーだ。
 いわゆるかわいい女の子って分類には、絶対に入らない。
 ナツキは今でも、オレの隣の席に座る中学校からの何でも話せるトモダチだ。

 世間一般ではかわいい女の子ってがいてカテゴリー化されている。
 シュガー、スパイス、ステキなものでできている。
 昔の歌でオレにだってくりかえし聞かされた。

 インスタのストーリーやTikTokを見れば、それは一理あるって思う。
 オレとはぜんぜん違う生き物だ。

 だけど、そのかわいい女の子ってカテゴリーにナツキを入れるとエラーだ。
 オレより背がデカいし、声だって低い。
 髪だってオレと同じぐらいに短いし、ピンクとか絶対に似合わない。
 もし、ナツキがレースのリボンとかつけたら、オレは大笑いするだろう。
 まあ、そんな姿は一度も、見たことはないけどさ。

 そしてナツキも爆笑したオレを気にしないか、オレの頭を本気で殴る。
 ナツキは男女というか、なんか違う。
 一緒くたにはできない。
 かわいい女の子ってカテゴリーじゃない。

 放課後、校舎から出ようと思ったら大雨だった。
 気にせずに飛び出していこうとしたオレに

「濡れて帰る気? 風邪引くよ」
 女の子っていうには低い声がためいき混じりに降ってきた。
 タカラヅカとか行った方がいいような王子さま。
「これぐらいなら。
 ゲリラ豪雨とかオレ、負けないし」
「夕立、って言うんだよ。
 傘、入っていきなよ」

 ナツキが開いた傘は……ピンクだった。

「らしくない」
 オレの言葉に
「女の子は『甘いもの』でできているんだって、親から持たされた」

 ナツキの笑った顔はガムシロップみたいに甘かった。

 カテゴリーエラーみたいなナツキでも、やっぱりオレとは違う生き物で。
 ピンク色の傘に入れてもらいながら帰った道はトクベツで。
 雨に少しだけ濡れたナツキは王子さまスマイルを浮かべて、かわいい女の子たちが憧れるような男前なことサラリと言って、学校の最寄り駅まで送ってくれた。

 やっぱりナツキはフツーのかわいい女の子じゃないけど。
 カテゴリーエラーを起こしたのはオレの心臓の方だ。
 ピンクの傘というシュガーに誘われた虫の気分を味わいながら、濡れずすんだ体で電車のつり革につかまった。
紅の空TOPへ > 並木空のバインダーへ