ハロウィンは31日


 秋の気配が濃厚になる季節。
 冬の方が近いぐらいで、あたたかいものが欲しくなる。
 隣を歩く幼なじみの足音は軽く、明るく。
 季節にふさわしいとは言えなかった。
 もっともそれぐらいが幼なじみにはちょうどいい。
「じゃーん!!
 今日は何の日でしょうか♪」
 賑やかなだけが取り柄のお子さまランチこと川崎えみが言う。
「ハロウィンだろう?」
 斎藤遊馬(さいとうあすま)は投げりやりに応える。
 10月31日。
 西洋のお祭りも、今日では当たり前になってしまった。
 普通の顔をしてお菓子のパッケージにお化けや魔女が彩る。
 街の中もオレンジと紫だ。
 これで気がつかなかったら鈍感を通り越しているだろう。
「残念♪
 今日は31アイスクリームの日でした。
 盲点でしょ?」
 ラ音で幼なじみは得意げに言う。
 言われるまで気がつかなかった。
 31日は31アイスクリームの日だ。
「というわけで。
 ダブルコーンをワッフルで食べたいな♪」
 奢ってもらうのが当然、そう言わんばかりにえみは言う。
「オレが奢る必然性を感じないんだけど?」
 遊馬は、つい突っ込みを入れてしまう。
「じゃあ、トリックの方がいいの?」
 頭一つ背が低い幼なじみが尋ねる。
 上目遣いで見上げてくる姿は……可愛いと言えば可愛い範疇に入るだろう。
 生まれた時から幼なじみなんてものをやっているせいで、新鮮味は薄いが、一人の女子として客観的に見れば、クラスの中でも可愛いの上位ランクインは確定している。
「……仕方がない、か」
 ためいき混じりに言う。
 トリック・オア・トリートという合言葉で、仕掛けられたトリックの数々を思い出すと頭が痛い。
 天使のように愛らしい外見に反して、中身は遊馬よりも『悪ガキ』だった。
 昆虫や爬虫類をつかんで、振り回すようなタイプだった。
 高校に入ってからは鳴りを潜めているが、トラウマになるようになった思い出はいまだに生々しい。
「同い年で、誕生日はオレの方が後なんだけど?
 精神年齢ってこと?」
 遊馬は意味のないような問いかけをしてしまう。
「そんなにトリックがいいの?
 今から考えなきゃ。
 何がいいかな?」
 お子さまランチの幼なじみは、真剣に考え事を始めた。
 ぞっとするような過去が蘇り
「トリートで」
 遊馬は根負けするように言った。
「やったー!
 何にしようかな?
 期間限定は外せないよね♪」
 えみの声がさらに弾む。
「ワッフルコーンなんかにして落さないか?
 二つもアイスを食べる、とかありない気温だけど。
 それともイートインでもすんの?」
「ちゃーんと食べ歩きをしますとも。
 これだけ街が賑やかだとね。
 今だけでしょ」
 えみは夢見るような表情で言った。
「まあ、そうだな」
 同意するようなところもあって遊馬も頷いた。
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