第六話
華やかで、豪華な、夜会。
主人公であるはずの第二王子ティデットさまは欠席だった。
そのことにパーティーの出席者たちは違和感を覚えていないらしい。
こっそり義兄のセイドリックに尋ねてみると『いつものことだ』と簡潔な答えが返ってきた。
どれほどまで病魔に生命を削られているのだろうか。
この王国のために、たった一つしか違わない王子は未来を視続けているのだろうか。
まるで悲劇的な末路をたどる『英雄譚』のようだ。
レティシアの菫色の瞳は陰る。
物語の結末を変えられればいいのに。
そんなことをできるのは、伝説になってしまっているロディアーヌさまぐらいだろう。
レティシアはこっそりとためいきをついた。
ファースト・ダンスを義兄のセイドリックは手放しで褒めてくれた。
社交辞令や身びいきなものでも、レティシアは嬉しかった。
それに多くの貴族は、いまいちな外見な侯爵令嬢よりも、滅多にダンスを踊らない眉目秀麗な騎士団長の方に注目していたのだから、ちょうどいい隠れ蓑になった。
恨むような令嬢の耳が痛くなるような言葉は入ってきたけれども。
義兄の心を射止め、いまだ独占しているのは麗しい姉であるブリジットなのに。
あくまで心優しい義兄は、妻のために義妹をないがしろにできなかっただけだというのに。
そんなに羨ましいのなら姉ほど麗しく、たおやかで、思いやりあふれる見目と性格を手にする努力をすればいいのに。
こそこそと恨み言をいうような令嬢に義兄がなびくとは思えない。
兄のジュールは呆れるほどプティ・フールを皿に盛ってきて、レティシアに手渡した。
一口大のケーキたちは、どれも華麗で、食べるのがもったいないほど美しかった。
領地に引きこもってばかりのレティシアには、滅多に食べられるものではなかった。
まるで親鳥がひな鳥にするように、レティシアがギブアップをするまで兄はかいがいしく給仕代わりをしてくれた。
最愛の妻はどうしたのだろうか、といいたくなるぐらいの猫可愛がりをされたのだ。
歳の離れた姉や兄たちからはいつまでも『可愛いレティ』のままなのだろう。
ちょうど貴族の派閥同士の懇談会、といった感じになってきたところでレティシアはパーティー会場から抜け出した。
これ以上、嫌になるような話を聞きたくなかった。
あるいは自分自身が注目されるようなことになりたくなかった。
そういった理由からだった。