14.微笑
くもりは 困った顔〜♪
雨は 泣き顔
ピーカンは 全開笑顔
雨の滴に合わせて、燈子が歌う。
屋根に落ち、雨どいを流れる、雨水。
軒をこぼれ落ちていく、水滴。
縁側のガラス戸を開けっ放しだから、ひんやりとした空気が入ってくる。
宗一郎は文机の上に載せていた腕時計の文字盤を見た。
長針は12のところ。
短針は4のところ。
そろそろ、夜が来る。
どうりで文字が読みにくくなってきたわけだ。
宗一郎は、読んでいた詩集にしおり代わりのリボンを挟む。
雷は 怒り顔〜♪
雪は
宗一郎は縁側で膝を抱えるようにして座っている燈子に声をかける。
「燈子。もう、遅い」
宗一郎は立ち上がり、ガラス戸に手をかける。
小さい頭がこちらを向く。
「帰るんだ」
宗一郎は言った。
燈子の夢見るような瞳が、宗一郎を写し取る。
「宗ちゃん、微笑みはなあに?」
燈子は微笑んだ。
宗一郎は困惑した。
「天気で、微笑みはなあに?」
澄んだ声が尋ねる。
その瞳は答えを待っている。
「青空……かな……」
自信なさそうに宗一郎は答えた。
「うん」
燈子はくったくない笑顔を浮かべた。
「送っていく。
傘、持ってきていないんだろう?」
「雨、やむと思ってたの」
ぴょこんと燈子は立ち上がる。
その拍子に馬のしっぽのようにくくった髪が揺れて、花の香りがした。
宗一郎は意識に浮かべないように、できるだけ努力をした。