4.透明
燈子が珍しく寝込んだ夏の日。
ヒグラシが庭で鳴いていた。
軽い夏バテだと、医者は言った。
燈子の透き通るように白い肌は、白すぎて……不安になった。
「宗ちゃん」
いつもよりも、低い声。
かすれていて、小さかった。
それでも、透き通っている。と、宗一郎は思った。
「お見舞い、来てくれたの?」
窓際にへばりつくようにしていた燈子が振り返る。
パジャマ姿の燈子は、ペタリと床に座り込んで、窓の傍にいた。
「隣だからな」
「ありがとう」
燈子は小さく笑う。
元気がない。
当たり前だ。
……夏バテをしているのだから。
空調は肌寒いほどで、外の温度とは対照的で、この世界を切り取っていた。
「寝てなくて良いのか?」
「飽きちゃった」
少女は言う。
燈子らしい、と、宗一郎は思う。
「体、大丈夫なのか?」
宗一郎は窓に近づく。
燈子は大きな瞳を向ける。
「たぶん」
燈子は小さくそう答えると、窓の向こうを見る。
いつもと違う様子が、宗一郎の胸を落ち着かせなくする。
普段はくくられている長い髪も、今はおろされている。
綺麗に切りそろえられている髪は、真っ直ぐと背を流れ、腰の辺りまで。
もうすぐ、床につくような気がした。
「外、暑かった?」
燈子は訊いた。
「ああ、夏だからな」
「汗、かいてる」
燈子は窓越しに宗一郎の鏡面を指差す。
それから、クスッと笑う。
「空が恋しいなぁ。
窓って、透明だけど、色は変わらないけど。
温度は変わるでしょ」
小さな手が窓を撫でる。
透明な硝子を通して、空を撫でる。
「暑い空に逢いたい」
燈子はポツリと言った。
「元気になったらな」
宗一郎は言った。
吸い込まれそうな大きな瞳が少年を見た。
「約束だよ」
燈子はようやく嬉しそうに笑った。
子どものように、顔のパーツを全部使って笑った。
「ああ」
宗一郎は、いつものようにその頭を撫でた。