麗らかな春の昼下がり。
江東の双華の片割れは、窓際でためいきをついていた。
散り行く花を憂うわけではなく、今日も行方不明な夫の身を案じてのこと。
隠れ鬼も、鬼ごっこも得意な青年は、執務を投げ出し雲隠れをした。
ここでは珍しくもない日常に、大喬は飽くなきためいきを零すのだった。
そんな折のこと。
ひょこっと、明るい色の髪の少女が顔を覗かせた。
「お姉ちゃん」
「小喬」
大喬は笑顔を取り繕うと、自分によく似た妹の名を呼ぶ。
「えへへ、遊びにきちゃった。
今、忙しい?」
「大丈夫よ。
いらっしゃい」
大喬は妹を招く。
ぴょこんと兎が跳ねるように、小喬は部屋に入ってくる。
妹の幼子のような仕草に、大喬は微笑んだ。
先ほどまでのくさくさした気分は、どこかに溶けていってしまった。
「お姉ちゃん」
「?
どうしたの、小喬」
「んーと、何か用事があったわけじゃないの。
お姉ちゃんの顔を見たくなちゃって。
それで……迷惑かなぁ?」
困ったように小喬は言う。
「ちっとも迷惑じゃないわよ」
ほんの少し違和感を覚えながら、大喬は言った。
兄弟の下らしく、妹は甘えん坊で、気ままなところがあったが、こんな表情をしただろうか?
少なくとも、結婚前の小喬はいつでも屈託なく、世界を楽しんでいた。
困ったように首を傾げたりすることは……なかったような、気がする。
「ホント!?
えへへ。
お姉ちゃん、大ー好き!」
飛びついてきた小喬を、慌てて大喬は受け止める。
にこにこと笑う妹は、今まで変わらないように見える。
それでも、どこか違うような気がする。
双子のように、仲が良い姉妹だからわかる直感のようなもの。
「ねえ、小喬」
「なあに、お姉ちゃん」
「最近。困ったことや、嫌なこととか、あった?」
「へ?」
丸く大きな瞳が大喬を見る。
「頼りないかもしれないけれど、話ぐらいなら聞けるわ」
真剣な大喬の言葉に
「お姉ちゃんは、全然頼りなくなんかないよ!
だって、あたしのお姉ちゃんなんだもん」
小喬も真剣に返す。
「本当に、心配事とかないのね」
「んー。
特にないよ。
お姉ちゃんこそ、心配事とかあるの?」
「えっ?」
「いつもあたしのことばっかり心配してるでしょ。
今日は、あたしがおねえちゃんの心配をしてあげるよ!」
小喬は言った。
もう自分だけの小さな妹はいない。
守ってあげなきゃいけなかった妹は、いないのだ。
大喬は、寂しさを感じた。
「ありがとう、小喬。
でも、私も心配事はないのよ」
大喬は微笑んだ。
「本当?」
「ええ、本当よ」
「じゃあ、今は幸せだね!
心配事がないんでしょ?
だったら、すっごく『幸せ』だよ」
小喬は無邪気に笑う。
それにつられて、大喬も笑みを深くした。
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