誰もいない星の間。
そっと、本を開く。
本当にかすかな音がして、すぐさまページが開かれた。
いつも、同じページ。
開きぐせがついてしまっている。
地の守護聖・ルヴァはわずかに微笑んだ。
見る者がいたら、それは苦笑とも取れたかもしれない。
喜び以外の感情がにじんだその笑み。
微かばかり、喜びが強いのだからやはり「微笑み」なのだろう。
ルヴァは、灰色の瞳を伏せる。
自分の中にある力を解放する。
それは、星が流れるほどの時間かもしれないし、星が生まれるほどの時間かもしれない。
確かに自分を自分たらしめるサクリア。
それは広い大地のような、礎となるような揺るぎのないもの。
自分の内側にあって、自分のものではないもの。
灰色の瞳が開かれると同時に、それが満ちる。
具現化される。
目に見える形として、本の中から光球が生まれる。
ルヴァが最も望む形、わかりやすい形で、それは開かれる。
生まれたての大地にサクリアが注がれていく。
自分の体を宇宙の意思が駆け抜けていく。
今、「地の守護聖」として存在している。
至福……という感情に似ていた。
「あー、知恵と知識が、人々の立つ大地となりますようにー」
ルヴァは穏やかに言うと、本をぱたんっと閉じた。
唐突に力の流出は止まる。
九本の柱で支えられている広間の天井をルヴァは仰ぐ。
「迷う、あなたの大地になれれば良いんですけどねー。
……私では、力不足でしょう」
ルヴァはつぶやいた。
本を閉じ、星の間から出て行けば、何の力もない。
知識はあっても、知恵の回らないただの男に戻る。
悩み、迷い、立ち止まった、その小さな背中にかける言葉が見つからない、そんな人間にかえるのだ。
ルヴァは苦笑を浮かべた。
本を抱えなおすと、星の間から出る。
本当の自分に向き合うために。
開きぐせのついたページは、昔語り。
砂の惑星に伝わる古い伝承。
おそらく、あの惑星ではルヴァしか覚えていないような風化した話。
『天使』にまつわる、綺麗ですこし切なくなるような物語。
その出だしのページが、ルヴァの背中を押す。
地の守護聖・ルヴァを支える。
ルヴァさま倶楽部! 「Luva's Birthday 2005」企画 投稿作品 和晴さんのイラストを挿絵にさせていただきました 画像クリックで和晴さんのサイトへ飛べます アンジェリーク中心のテキストサイトです |