日の曜日。
森を歩く少女は楽し気だ。
それに合わせて、金糸雀色の長い髪が揺れる。
女王陛下の慈愛が広がる時に見えるような。
かつては、そう思っていた色の髪だ。
「頑固で、こだわり屋で、偏屈で、頭が固くて」
歌うように女王補佐官は鋼の守護聖の欠点を挙げていく。
どれもこれも思い当たる節があったので、エルンストは反論しなかった。
できなかったが、正解だろう。
「融通が利かなくて、ユーモアがわからなくて」
レイチェルは、そこで言葉を区切る。
一拍を空けるのは効果的だ。
それは耳目を集めるのに、有効な手段だと経験上、少女も男性も知っていた。
論文を発表する際、ディベートを行う際、活用してしてきた。
王立研究院で行われてきた事柄だった。
すれ違ったとはいえ、二人は研究員として、短くはない歳月を過ごしてきたのだから。
エルンストが黙っていると、レイチェルは振り向く。
それに合わせて、金糸雀色の髪が宙に惜しみなく広がる。
まるで飛び立つのを待つかのように。
暁色の瞳が迷うことなくエルンストを見つめる。
ただの紫ではない。
朝の始まり。
一瞬にしか見られない現象。
それこそが少女の瞳の色だと思った。
「そんなアナタが大好き」
レイチェルはくっきりと笑う。
原始の宇宙のように驚きがあふれている。
「欠点だらけのようですが?」
エルンストは真意をつかみかねて、チタンフレームを指で押し上げる。
「完璧じゃつまらない。
少しぐらい欠けている方が情緒がいうものがあるでしょう?」
レイチェルは言った。
本当に少女の考えが読めない。
手に余る。
エルンストはためいきをつかないように、空を見上げた。
女王陛下の力が安定した宇宙の空は、姉宇宙と同じ。
美しいぐらいの青い空だった。
「それで返事は?」
レイチェルは尋ねた。
「日の曜日についてくるぐらいには、魅力的だと思っていますよ。
一般的にはデートと呼ぶのでしょう?」
エルンストはレイチェルを見た。
十六歳で時を止めてしまった少女は楽しそうに笑う。
自分には三年間という月日が流れたというのに、少女自身は変わっていない。
まるで出会った時のままだ。
「個人的な研究よりも素敵ってことだね。
エルンストにしては上出来だね」
レイチェルは青空よりも鮮やかに告げた。