ワンシーン・バトン

<ワンシーン・バトン>
以下のシーンやテーマから、セリフとシチュエーションを連想して下さい。

静かなる追憶(曹丕×甄姫)
もうすぐ果てる身体(周瑜×小喬)
死地に赴く(陸遜&孫権)
課せられた使命(曹昂&曹操)
引き裂かれた絆(諸葛瑾&諸葛亮)
払拭した過去(陸遜×孫尚香)
永劫回帰 (同じものが永遠に繰り返してくること)(曹丕×甄姫)
(大喬&小喬)
約束(周瑜×小喬)

※暗めなお題が多いので、死にネタが転がっています。
 オリジナル設定が入り込んで、無双じゃないところが……。
 しかもバトンの趣旨を曲げちゃったのか、セリフがない答えが……。
 勢いあまって、バトンにしては、ちょっと長めです。

※質問クリックで、回答に飛べます。



■静かなる追憶

 去年と同じ冬が来た。
 今年は少しばかり風景が違う。
 思い起こすのは、ほんの些細な事柄から。
「我が君?」
 曹丕の思考を遮るのは、天上の楽師の弾く弦もかくやという声。
 包み込むようなあたたかな気遣いにあふれていた。
 青年は振り返らず、佳人を待つ。
 帯玉の打ち合う音と共に、咲いた花のような甘い香りが強くなる。
 曹丕が名も知らぬような花の香りが、孤独を慰めるように抱く。
「何を考えていましたの?」
 なじるような言葉。
 女性らしい恨みが漂うのに、不思議と嫌いにはなれない。
「そなた以外のことだ」
 曹丕は答えた。
「まあ。妬けてしまいますわね。
 どなたのことですの?」
「訊いてどうする?」
「決まっていますわ」
 女は自信に満ちた笑みを浮かべる。
「地の果てまで追っていって、殺します。
 我が君の瞳に映るのは、私だけで充分です」
 それはそれは楽しそうに、甄姫は言った。
「その必要はない」
 曹丕は自嘲気味に笑む。

「その者は、もう死んでいるのだからな」

 父譲りだといわれる双眸は、それを見つめる。
 視線の先には、空の玉座があった。
 死者が欲しながらも、いらないと強がったもの。
 曹丕のものとなった権威の象徴があった。

(曹丕×甄姫:曹操の死後。即位後)

△このページ上部に戻る



■もうすぐ果てる身体

 何も果たせずに終わる。
 絶望と呼ぶには苦すぎる後悔が身をさいなむ。
 あと、何度息を吸って、吐くのだろうか。
 朦朧とする意識の中で友を思い出す。
 前だけを見ていた漢は、最期のとき何を思っていたのか。
 口にしたのは、この国を託す言葉だった。
 恐怖はなかったのだろうか。
 志半ばに倒れる。
 全てを中途半端に残していくことに、不安を感じなかったのだろうか。
 すでに故人となっている者を思い返すのは、時間の無駄だろうな。
 と、周瑜は笑みらしきものを浮かべる。
 幸いなことが一つあるとしたら、この場に妻がいないことだ。
 情にもろいから、泣くだろう。
 涙で池ができるほど、声も上げずに泣くのだろう。
 死にいく自分を見つめながら……。
 傷つけずに、その心を守っていきたいと思ったただ一人の女性だ。
 その涙を見ずにすむことが、幸いだ。
 周瑜は目を閉じ、妻の笑顔を思い出す。
 春の日差しに舞い遊ぶ胡蝶のような姿をまぶたの裏に描く。
 一人で死ぬのは怖くない。
 周瑜は微笑んだ。

(周瑜×小喬:周瑜病没)

△このページ上部に戻る


■死地に赴く

 すとんと心の中に、落ち着いた。
 納得している自分が小気味良い。
 激戦が予想された。
 
 今度こそ、死ぬかもしれない。

 陸遜はいつものように微笑んだ。
 今までも、楽な戦など、一つもなかった。
 戦況は予想通りにはならない。
 いつ死んでもおかしくなかった。
 今度の戦は、その可能性が少しばかり大きいだけだ。
「かしこまりました」
 陸遜は主君に向かって、拱手した。
 青い瞳は、感情豊かに後悔を伝える。
 隠し事が下手でいらっしゃる、と少年は心の中で苦笑する。
「我が軍に勝利を。
 ……策は必ずや成し遂げてみせます。
 ご期待ください」
 陸遜は、お決まりの言葉を口にする。
 それが戦場へ赴く者の役目だ。
 命令した者が悔やむことのないように、陸遜は勝利を約束するのだった。

(陸遜と孫権)

△このページ上部に戻る



■課せられた使命

 私はこの時のために生まれてきたのだ。

 曹昂は確信した。
 存外幸福なことなのかもしれない。
 燃え盛る炎の中で曹昂は微笑んだ。
 歴史という大河で、これといった名を挙げることなく消えていく者も多い。
 千載一遇の機会というものだった。
 自分の死は無駄にならない。
 確信できたからこそ、若者は言った。

「父上。
 この馬をお使いください」

 ここまで曹昂を連れてきてくれた馬を差し出す。
 父親はたづなを受け取り、その馬にまたがる。
 ひづめの音にかき消された言葉は、恐らく――。

「すまない」

 曹昂は聞き落とさなかった。
 自分の死を惜しんでもらえた。
 それが嬉しかった。
 父を逃がすのは、子としての務め。
 総大将を逃がすのは、配下としての務め。
 多くの人物に役に立つほうが生き残るのは、生き物の掟。
 曹昂は当たり前のことしかしていない。
 だから、役に立つことができて、嬉しかった。

(曹昂と曹操:宛城の戦い)



■引き裂かれた絆

 省みなかった過去が目の前にやってきた。
 半ば力づくで、半ば計算的に。
 小さかった弟が羽扇を片手に熱弁をふるう。
 自分の仕える主の前で。
 敵とも味方ともつかぬ勢力の代表として。
 巡り会わせというものは、ずいぶんと皮肉な結果を見せつける。
 諸葛瑾はためいきをかみ殺す。
 呉に来るとき、弟を伴えば、こうして出会うこともなかったのだろう。
 血を分けた兄弟として、何でも話し合えたのだろうか。
 今は遠くなってしまった弟から、諸葛瑾は目をそらした。

(諸葛瑾と諸葛亮。赤壁の戦い開戦間近)

△このページ上部に戻る



■払拭した過去

「本当に大丈夫なの?」
「お任せください」
「別に陸遜のことを疑ってるわけじゃないのよ。
 でも……。
 前、失敗したでしょ?」
 尚香は肩をすくめる。
 綿密な打ち合わせをしたのにも関わらず、前回は大失敗したのだ。
「あれは過去のことです。
 今の自分は違います」
 いやに自信満々に陸遜は言う。
「そう?
 なら良いんだけど」
 少女は言った。
 頭が回る友だちと違って、尚香は作戦に具体性を持たせるのが苦手だった。
 少年よりも素晴らしい計画を立案することはできない。
 それに巻き込んだのは自分のほうなのだ。
 周りにばれたとき、ちょっとぐらい怒られても仕方がない。
「良いですか。
 まず姫はいつもどおりに過ごしてください。
 侍女に疑われてしまうと、警戒が厳しくなりますからね。
 抜け出す、と思われてはいけません。
 それで――」
 少年の説明は続く。
 真剣に少女は耳を傾け、理解に専念する。
 今度こそ、みんなを出し抜いて、街に遊び行くのだ。
 あれこれと想像すると、期待で胸が弾んだ。

(陸遜×孫尚香:日常)

△このページ上部に戻る



■永劫回帰 (同じものが永遠に繰り返してくること)

 白くにじむ月光を浴びた手の平は、大きく硬かった。
 不自由のない暮らしをしていたという意味では、夫と同じである青年。
 鍛錬をいとわぬ手をしていた。
 傲慢な物言いとは裏腹。
 大きな矛盾を抱えこんでいる。
 理解してくれるだろうか。
 甄姫の胸のうちに、淡い期待が芽生える。
 目の前の青年は、これまでの男とは違うかもしれない。
 ありきたりのことを言わず、また面白みのないことを口にしない。
 そうだと信じてみたくなった。
「お強いお方」
 矛盾を抱えても、これほどまでに輝いている。
 甄姫は唇をほころばせる。
 運命を預けても良い。
 矛盾した手を取りながら、思う。
 この先、どんな未来が待っていても、甄姫はこの手を取るだろう。
 時間を巻き戻すことができても、これ以外の未来を選ばない。
 そんな自信があった。

 (曹丕×甄姫:官渡の戦い)
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B0%B8%E5%8A%AB%E5%9B%9E%E5%B8%B0

△このページ上部に戻る



■嘘

 双子のように良く似た姉妹は、寝台の上に座っていた。
 揺らぐ炎で照らされた二人の手は、頼りない。
 お互いしかいない、と堅く手はつながれているというのに。

「ずっと、一緒よ」
「うん」
 小喬はうなずく。
「大丈夫よ」
「うん」
「何も変わらないわ。
 不安になることなんて、一つもないのだから」
 大喬は言う。
 空っぽの響きがした。
 きっとウソになる、と小喬は思った。
 今だって、心臓はバクバクして、泣きたい気分なのに。
 明日からは、きっと、もっと辛い。
 ずっと一緒に寝ていたお姉ちゃんと、一緒に眠れないから。
 怖い夢見たとき、ぎゅっとしてくれなくなっちゃう。
 一人でお手洗いに行かなきゃいけなくなる。
 眠るまで手をつないでくれなくなるし、お話をすることもできなくなる。
 全然違くなる。
 それでも、小喬は貝のように口を閉じる。
 お姉ちゃんを取っていっちゃう人に文句をつけたかったけれど、できない。
 幸せになるために、お姉ちゃんはその人のところへ行くのだから。
 一番幸せになって欲しい人だから、小喬は言わない。
 ただ、何度もうなずくだけ。
 泣きたい気持ちをこらえながら。

(大喬と小喬:結婚前夜)

△このページ上部に戻る



■約束

「はい、周瑜さま」
 目の前に小指が突きつけられた。
「約束」
 唇を尖らせながら、小喬は言う。
 すねたような怒ったようなその表情が可愛い。
 素直に伝えたら、間違いなく少女はもっと怒るだろう。
 玉のような双眸が真剣に周瑜を見据える。
「わかった」
 周瑜は細い指に、自分のそれを絡める。
 力をこめたら、簡単に折れてしまいそうだった。
 すべらかな肌の感触を心地よく思いながら
「約束だ」
 周瑜はうなずいた。
「絶対、置いてかないでね。
 あたしは、どこにでもついていくんだから」
 間近にある唇が決意を告げる。
「もう置いていったりはしない」
 周瑜は微笑み、不満げな唇を掠め取った。

(周瑜×小喬:日常)

△このページ上部に戻る

真・三國無双TOPへ戻る